コーヒーの精製方法:ウォッシュドとは何か
コーヒーの味わいは、その栽培から収穫、そして精製までのプロセスによって大きく影響されます。特に精製方法は、コーヒーの最終的な風味に直接的な影響を与える重要な工程です。
この記事では、コーヒーの主要な精製方法の一つである「ウォッシュド」についてご紹介します。ウォッシュドプロセスの定義、手順、特徴、そしてコーヒーに与える影響について解説します。
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ウォッシュドとは何か
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ウォッシュドプロセスは、コーヒーの精製方法の中で最も一般的で広く用いられている方法の一つです。このプロセスは、クリーンで明瞭な風味を生み出し、コーヒーの自然な酸味や果実味を際立たせます。発酵と洗浄によってミューシレージを完全に除去するため、風味の一貫性が高く、品質のばらつきが少ないコーヒーを提供することができます。
ウォッシュドとは
ウォッシュドとは、収穫されたコーヒーチェリーから果肉を除去し、発酵を経て種子(コーヒー豆)を洗浄・乾燥させる精製方法です。
この方法は、コーヒー豆の風味をクリーンで明瞭に保ち、果実味や酸味を際立たせるとされています。
ウォッシュドプロセスは、多くの高品質コーヒーの生産に用いられており、特に中南米やアフリカの産地で広く採用されています。
ウォッシュドのプロセス
ウォッシュドプロセスは、以下の主要なステップから成り立っています。
1. 収穫
ウォッシュドプロセスの第一歩は、完熟したコーヒーチェリーの収穫です。手摘みで収穫されることが多く、品質の高いチェリーだけを選びます。未熟なチェリーや過熟なチェリーは除去され、最良の品質を維持します。
2. 果肉除去(パルピング)
収穫されたコーヒーチェリーは、果肉除去機(パルパー)を使用して果肉を取り除かれます。この過程で、種子(コーヒー豆)はミューシレージと呼ばれる粘質物に覆われた状態になります。
3. 発酵
果肉が除去された後、種子は発酵槽に移されます。発酵槽での発酵時間は、通常12〜48時間で、気候や温度、豆の状態によって異なります。発酵の目的は、ミューシレージを分解し、豆から取り除きやすくすることです。この過程で、酵素がミューシレージを分解し、豆がクリーンな状態になります。
4. 洗浄
発酵が完了した後、種子は大量の水で洗浄されます。洗浄の目的は、発酵で分解されたミューシレージを完全に取り除くことです。洗浄は、機械的に行われることが多く、ウォッシュドプロセスの名前の由来でもあります。
5. 乾燥
洗浄後、コーヒー豆は乾燥工程に移ります。乾燥は、天日干しまたは機械乾燥によって行われます。天日干しの場合、豆は乾燥台(パティオ)やアフリカンベッドと呼ばれる高床式の乾燥棚に広げられ、定期的にかき混ぜられます。機械乾燥の場合、乾燥機を使用して均一に乾燥させます。乾燥は、豆の水分含有量が約10〜12%になるまで続けられます。
6. 脱殻と選別
乾燥後の豆は、パーチメントと呼ばれる薄い皮に包まれた状態です。このパーチメントを除去するために、脱殻機(ハラー)が使用されます。脱殻後、豆はサイズや密度、色などで選別され、品質が均一に保たれます。
ウォッシュドプロセスの特徴
ウォッシュドプロセスは、他の精製方法と比較して以下のような特徴を持っています。
クリーンで明瞭な風味
ウォッシュドプロセスの最大の特徴は、コーヒーの風味がクリーンで明瞭に保たれることです。発酵と洗浄によってミューシレージが完全に除去されるため、コーヒー豆の本来の風味が際立ちます。これにより、果実味や酸味が強調され、雑味が少ないコーヒーが得られます。
明るい酸味
ウォッシュドプロセスは、酸味が際立つコーヒーを生み出すことが多いです。特に、高地で栽培されたアラビカ種のコーヒーは、ウォッシュドプロセスによって明るいシトラス系の酸味やベリー系のフレーバーが強調されます。
一貫性のある品質
ウォッシュドプロセスは、発酵と洗浄が厳密に管理されるため、風味の一貫性が高くなります。これにより、同じロット内での品質のばらつきが少なく、消費者に安定した品質のコーヒーを提供することができます。
環境への影響
ウォッシュドプロセスは、大量の水を使用するため、水資源の豊富な地域で主に行われます。しかし、水の使用量が多いため、適切な水管理が求められます。最近では、環境への負荷を減らすために、使用水の再利用や廃水処理の改善が進められています。
ウォッシュドプロセスと他の精製方法の比較
ウォッシュドプロセスは、他の精製方法である乾式精製(ナチュラル)や半湿式精製(ハニープロセス)と比較すると、以下のような違いがあります。
乾式精製(ナチュラル)との比較
乾式精製は、果肉を付けたままコーヒーチェリーを乾燥させる方法です。この方法は、フルーティで重厚な風味が特徴です。
- 風味の違い: ウォッシュドプロセスはクリーンで明瞭な風味、乾式精製はフルーティで複雑な風味。
- 酸味: ウォッシュドプロセスは明るい酸味が強調されるのに対し、乾式精製は酸味が控えめで、甘みが強く出ることが多い。
- ボディ: ウォッシュドプロセスは軽やかなボディ、乾式精製は重厚なボディ。
半湿式精製(ハニープロセス)との比較
半湿式精製は、果肉の一部を残したまま乾燥させる方法です。この方法は、バランスの取れた風味が特徴です。
- 風味の違い: ウォッシュドプロセスはクリーンで明瞭な風味、ハニープロセスは複雑でバランスの取れた風味。
- 酸味: ウォッシュドプロセスは酸味が際立つのに対し、ハニープロセスは酸味と甘みのバランスが良い。
- ボディ: ウォッシュドプロセスは軽やかなボディ、ハニープロセスは中程度のボディ。
ウォッシュドプロセスがもたらす風味の例
ウォッシュドプロセスによって生み出されるコーヒーの風味は、その地域や品種によっても異なります。以下に、ウォッシュドプロセスによる風味の例をいくつか紹介します。
エチオピア産ウォッシュドコーヒー
エチオピアのウォッシュドコーヒーは、しばしばジャスミンやベルガモットのような花の香り、シトラス系の明るい酸味、そして紅茶のような繊細な風味が特徴です。エチオピアの高地で栽培されたコーヒー豆は、ウォッシュドプロセスによってその特有のフレーバープロファイルが際立ちます。
コロンビア産ウォッシュドコーヒー
コロンビアのウォッシュドコーヒーは、チョコレートやナッツのようなリッチなフレーバーと、リンゴやベリーのようなフルーティな酸味がバランスよく調和しています。コロンビアの気候と土壌は、ウォッシュドプロセスによってその風味を引き出すのに適しています。
ケニア産ウォッシュドコーヒー
ケニアのウォッシュドコーヒーは、ブラックカラントやグレープフルーツのような鮮やかなフルーツのフレーバーが特徴です。強い酸味と複雑な風味が重なり合い、非常に印象的な味わいを持っています。ケニアの特有の土壌と気候が、ウォッシュドプロセスと相まって独特の風味を生み出します。
まとめ
ウォッシュドプロセスは、コーヒーの精製方法の中で最も一般的で広く用いられている方法の一つです。このプロセスは、クリーンで明瞭な風味を生み出し、コーヒーの自然な酸味や果実味を際立たせます。発酵と洗浄によってミューシレージを完全に除去するため、風味の一貫性が高く、品質のばらつきが少ないコーヒーを提供することができます。ウォッシュドプロセスは、特に中南米やアフリカの高品質コーヒーの生産において重要な役割を果たしています。
コーヒー愛好者にとって、ウォッシュドプロセスのコーヒーは、そのクリーンで明瞭な風味を楽しむ絶好の機会となります。また、生産者にとっても、このプロセスを適切に管理することで、高品質なコーヒーを安定して生産することが可能となります。ウォッシュドプロセスの理解を深めることで、コーヒーの多様な世界をより一層楽しむことができるでしょう。
参考文献・リンク
- 全日本コーヒー協会
- 全日本コーヒー公正取引協議会
- AGF株式会社
- コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)
- 田口護の珈琲大全
- 珈琲の世界史 (講談社現代新書)
- コーヒー おいしさの方程式
- 珈琲焙煎の書
- 極める 愉しむ 珈琲事典
コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (ブルーバックス)
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